古典的類型論と比較綺語論
―日本語動詞形態の分析を通して―

酒井 弘(広島大)

屈折と膠着という二つの形態論的特徴によって,世界のすべての言語を分類しようと試みる古典的類型論の主張は,様々な問題点を指摘されながらも,言語の多様性を直観的に捉える魅力を今なお保ち綺けている.一方,比較統語論と呼ばれる,言語の多様性に対する生成文法理論を背景としたアプローチにおいては,言語間の相違は普遍文法に備え付けられたパラミターの値を変更することによって生じると主張されている.本論文においては,Chomsky (1995) において提案された Formal Features (FF) の理論を採用しつつ,FF が付与される要素についてのパラミターを独自に提案することで,古典的類型論の洞察を比較統語論の中に取り入れることを試みる.提案されたパラミターを組み込んだ理論が,形態論的特徴と統語的移動の有無の間に重要な相関関係を予測することを指摘し,日本語動詞形態の分析を通して理論の予測が実現されることを示す.