本発表では,現代日本語のいわゆる「過去形」「タ」の本質的意味機能が,変化フレーム内での〈実現〉を表示するアスペクトであることを主張する.
テンス概念では説明できないということから,従来マイナーな用例として扱われてきた「タ」に着目し,まず,それを発話する際の話者の心の動的システムを内観することにより「タ」の意味構造を考える.次に,その意味構造が作用して「タ」が表出されるメカニズムをメンタル・スペース概念を用いて説明する.
最後に,「タ」の意味構造,表出メカニズムを以上のように考えると,従来さまざまに分類されていた「タ」の振る舞いが統一的に説明できることを例証する.