ウォライタ語の受動文

若狭 基道(東京大大学院)

エチオピアで話されているウォライタ語(アフロアジア語族)の受動文では,多くの場合,「動作の直接的な対象を表し,意味上対応する能動文では対格を取る」名詞句が主語になる.但し,以下のような現象も存在する.
1. 能動文で対格を取らなくても,動作の直接的な影響を受けるものを表す名詞句は,受動文の主語になれる.即ち,「私は頭を殴られた」のような受動文が可能である.
2. 能動文で対格を取り,動作の直接的な対象を表すとは言い難いものを表す名詞句(例えば同族目的語,行先を表す名詞句)が受動文の主語となることがある.
3. しかし一般には,能動文で対格を取っていても,意味的に動作の直接的な対象と見なせないものを表す名詞句は受動文の主語にはならない,或いは極めてなりにくい.

また,以上の結果として,受動文の主語となり得る候補が二つ存在する場合もある.