言語習得における格助詞「が」の省略可能性について

鈴木 孝明(ハワイ大大学院)

日本語の格助詞の中で一般に対格の「を」は主格の「が」に比べて省略されやすいと考えられている.これは主語と目的語に関する統語構造上のアシメトリーによるものであるというとらえ方があるが,この文法的な制約を日本語の母国語習得において実験検証した結果を報告する.

日本語を母国語とする3-6才児を対象とした文産出テストで,子供の格助詞の省略を二項状態動詞(たとえば「わかる」など)と二種類の自動詞(非能格動詞と非対格動詞)で調べた結果,子供は目的語をマークする「が」を主語をマークする「が」より頻繁に省略することがわかった.また,自動詞においてはその非対格性による「が」の省略に差が無いことが確認された.言語習得における格助詞の省略現象を文法の獲得という観点から考察する.