語の多義性は,カテゴリー拡張として捉えることが出来るが,その内部構造は,必要十分条件によって内包的に定義される古典的カテゴリーではなく,プロトタイプを中心として放射状に拡張するカテゴリーをなすことが多い.日本語の動詞「食う」の多義性を分析すると,その語義拡張構造が「食べる」という意味を中心として5種類の拡張方向をもつ放射状カテゴリーを成すことがわかる.このそれぞれが,メタファー,メトニミーなどの原理にもとづいて拡張しており,どれも「食べる」ということに関わる経験的動機付けをもっている.表面上は矛盾するように見える正反対の語義でも,経験的動機付けの観点から矛盾なく説明することが出来る.またこの語義拡張モデルは,概ね,動詞「食う」の意味の歴史的変化に対応していることから,語義変化は認知的な動機付けによって生じるという見方を支持する結果が得られた.