福岡市博多地方には共通語の「だ」「よ」に相当する「ヤン,タイ,バイ,クサ,ヤガ,φ」等の不変化詞が存在する.共通語では形式的に区別できない意味が明示的に区別されるこれらの意味機能分析は,共通語のモダリティ研究に大いに貢献できるものである.
ここでは,その足がかりとして,まずタイ,バイ,クサの三つを取り上げる.これらは話し手が事態をどのように判断し,認識したか,という態度を表す判断系のモダリティ要素で,すべて,ある事柄の認識の仕方の変化に言及するものである.
まず,「当然」の意を表し,話し手と聞き手の「共通知識」を作る働きもするクサとタイとを比較する.次に話し手,聞き手の両方の認識変化に関与するタイとバイとを比較する.タイは,話し手か聞き手のどちらか一方の知識状態変化を表すが,バイは常に,話し手の認識の変化による聞き手の認識状態の変化という,時間軸に沿った両者の変化を表す.