語順の地理的分布の変遷について

山本 秀樹(弘前大)

現在の語順分布は,整合的 VO 型と(準)整合的 OV 型とがほぼ同等の面積を占めて,連続的に広く分布している.しかし,通時的に遡っていけば,VO 型語順を持つ地域というのはきわめて限られており,今日,広域な広がりをみせる VO 型語順も,その大部分は,大語族が拡散し始めた新石器時代以降に,しばしば語順の改新を伴いつつ,モの拡散に従って広がってきたものと考えられる.現在では OV 型をとらない言語群も含め,SOV 型の祖語を持つ語族は多い.また,系統不詳の古い言語も多くが SOV 語順を示し,言語蝟集を示す地域もほとんど SOV 型の言語圏を成している.SOV 型語順には,言語接触等を通じてある一言語が広域に広がることが少なく,文法的語順の自由度が高かった時に,最も自然に現われやすいという言語内的要因も考えられる.よって,かつては地球上の大部分の地域を整合的 SOV 型が占めていた可能性が最も高い.