ギリシア語には,u 語幹形容詞と語根を同一にする s 語幹中性名詞が存在する.それらの中性名詞は,大多数が零階梯の語根から形成されている.また,若干の名詞は,e 階梯の語根から形成された同系話をインド・イラン語派に持つ.このため,以下のような二つの問題点を指摘することができる.i) 多くの s 語幹中性名詞は e 階梯の語根から形成されているが,これらでは,零階梯の語根からの形成が行われている.ii) インド・イラン語派に継承されている形式と,ギリシア語に継承されている形式が異なる例が存在する.
これらの問題について,本発表では,ギリシア語の形式は,語根母音が零階梯を示す,本来弱語幹であった形式が,ギリシア語では,対応する u 語幹形容詞の影響を受けて,強語幹にも広がったという解釈を示した.