言語形式は文脈によりさまざまに用法を変える.本発表では,このような言語形式の多義性を,領域間における認知的写像という観点から捉えることを目的とする.ケーススタディーとして,形式名詞トコロの条件解釈を例にとる.トコロの条件解釈には,i) トコロが後件に現われ,反事実条性分となるもの (a),(ii) 前件に現われ,譲歩文として解釈されうるもの (b) がある.
a. 彼が来ていれば,大変なことになっていたところだ.
b. 彼が来たところで,何も起こらないだろう.
本発表では,トコロの基本的意味を「ある領域において唯一の点を決める」という関数機能として捉える.そして文の統語的特徴等によりトコロが命題集合をその領域とする際,カウンターパート(対応世界)をとる,つまり条件解釈が現われることを示す.また非条件解釈の用法も含めたトコロの多義性のメカニズムを明らかにする.