日本語動詞補文における時制について

山岡 洋(佐野国際情報短期大)

寺村 (1984),砂川 (1986) などでは,日本語の動詞補文時詞は原則として主節によって指示されている時点を基準とした時制を表す旨が述べられている.しかしながら,補文が発話時を基準とした時制となることもある.

(1) 太郎は,3日前の彼のパーティに僕が行ってあげた/*来てくれたことを,明日になれば思い出すだろう.
(2) 花子は,目の前の人物が自分の父親だったと*信じていた/信じられなかった.

本発表では,上述の寺村 (1984) らの原則は支持しつつ,前提を含意しない「ト」や断定動詞が用いられた場合には主節時基準となり,前提を含意する「コト」や叙実動詞が用いられた場合には発話時基準となることから,補文が発話時基準となる要因が「前提」という概念にあると考えた.