裸名詞の文脈指示的用法
秋月 高太郎(尚絅女学院短期大)
自然言語は,ひとたび談話に登場した人やものをふたたび言及するためのいくつかの異なった表現形式を備えている.それらの表現形式にはヒトの認知機構や記憶システムからくる共通性があるものの,言語によってヴァリエーションをもつ.日本語では,「これ」「それ」などの指示詞,「彼・彼女」などの代名詞,名詞に「この」「その」などの指示詞がついたもの,裸の形の名詞などがあげられる.本発表では,特に,文脈指示的に用いられる裸名詞に焦点を当て,日本語のその他の文脈指示表現と比較することで,その指示のしかた,ふるまい方,用法を明らかにする.日本語の文脈表示表現の選択は,導入されたコンテクストのタイプにかかわっており,文脈指示的または特定指示的に用いられる裸名詞は,話し手(筆者)によって導入された心的イメージ・コンテクスト内に存在する人やものを指すはたらきをもつと考えられる.