日本語の自動詞型「てある」構文について

高橋 英也(東北大大学院)

本発表では,「机に本が置いてある」のような日本語の自動詞型「てある」構文について考察した.特に,当該の構文に生起する「ある」は,一時的な存在を表す本動詞「ある」であり,(i) 動作主を潜在化する,(ii) 動作主による行為が終了した結果生じる状態の存在を表す,という語彙的性質を持つと論じた.本論で提示した分析は,当該の構文の示す次の諸特徴に対して自然な説明を与える.第一に,基底の動詞の項ではない「に」場所句がしばしば導入される.第二に,動作主による行為を表す動詞のみが当該の構文に生起可能である.第三に,動作主指向の副詞や目的節は生起可能であるが,動作主自体が顕在的に具現することはない.第四に,含意される動作主の行為を修飾する様態の副詞は生起しない.第五に,英語の中間構文との類似性を示す.また,本発表では,Matsumoto (1990) で提案されている語用論的分析を概観し,それが妥当ではないことを論じた.