イヌピアック語上コブック方言の斜格
永井 忠孝(東京大大学院)
本発表の主張は,「イヌピアック語における斜格の選択には,これまで統語的な条件のみが関与していると考えられていた用法においても,意味的な条件が関与している」ということである.この主張の根拠を,三つの場合について示す.
名詞幹に派生接尾辞がついて形成された動詞の名詞の部分を,ほかの名詞が意味的に修飾することができるが,このような名詞は斜格で現れる.この名詞がとる格は,派生接尾辞の意味によって決まる.
再帰文で「自分で」を表す名詞がとる格は,その動作が意志をもって行われるものか,そうでないかによって決まる.
能動文で目的語になる名詞は,対応する逆受動文では斜格で現れる.この名詞がとる格は,動詞がどのような動作を表すかによって決まる.