リトアニア語の習慣相過去テンスの意味と機能

櫻井 映子(名古屋大)

リトアニア語の接尾辞 -dav- をもつインパーフェクトは,多回的(反復的)過去テンスと呼ばれるが,回数を限定した多面性を表わさず,主に習慣的な反復性・持続性を表わす.本発表では,これを imperfective の下位類である習慣相の過去テンス(習慣過去)と認めた上で,〈多回性一習慣性〉という連続的な量的アスペクト表現において相補的分布をなす一般過去とこの形式の使用域を明らかにした.

習慣過去は,一般過去で perfective となる限界動詞(特に派生的(有標)限界動詞)の反復の表現であり,さらに,共通したマクロな習慣的場面に属する複数の下位場面の通時的・共時的 perspective を表わす.動詞(句)の語彙的意味〈限界性-非限界性〉と,この形式が表わすマクロ場面の〈反復性-持続性〉: 〈複合的同時性〉/下位場面の〈完成性-持続性〉: 〈順次性-同時性〉という複合的アスペクト・タクシスは相関関係にある.