アバール語の相互代名詞 tsotsa- について
山田 久就(筑波大)
Dixon(1994), Manning(1996) は,相互代名詞の分布は世界の全ての言語で(主格・対格型の格配列を持つ言語でも絶対格・能格型の格配列を持つ言語でも)「統語的対格性」を示すと予測している.しかし,絶対格・能格型の格配列を持つ言語であるアバール語の相互代名詞 tsotsa- の分布は「統語的能格型」を示す.Dixon (1979, 1994) の用語 S, A, O を用いると,アバール語では,S も A も O も相互代名詞 tsotsa- の先行詞になることができる.しかし,O は A の位置にある相互代名詞 tsotsa- の先行詞になることができるが,反対に,A は O の位置にある相互代名詞 tsotsa- の先行詞になることができない.
アバール語の相互代名詞 tsotsa- の分布を一般化すると次のようになる.(i) S, O の位置に相互代名詞が現われることはできない.(ii) A の位置にある相互代名詞が O 以外の位置にある名詞句を先行詞にすることはできない.