コーランの物語テキストにおける限定名詞句の用法
榮谷 温子(東京外国語大大学院)
本発表ではコーランの物語テキストにおいて,登場人物がどんな形式で表現され,その形式の違いがテキストにどんな効果をもたらすか,メイナードの Staging 論や久野の視点論を踏まえ,Hinds が主張した登場人物同定の三段階((1) 導入,(2) トピックとして設定,(3) トピック化の後は省略)との比較を通して考察した.
コーランの物語テキストでは,上記 (2) → (3) に反する例が見られる.これらには話題そのものの転換のほか,同一の話題の語り内における視点の変化を示す機能や,それに伴う場面転換を引き起こす働きもある.他方,物語の中心に置かれぬ登場人物は,代名詞化されずトピックとして持続されない.時には中心人物に依存する対称詞として表現され必然的に低い共感度しか得られないケースもある.