スンバワ語の鼻音動詞

塩原 朝子(東京大大学院)

スンバワ語には他動詞の語頭音が鼻音化して派生した自動詞(以下鼻音動詞)があり,その中には,元の他動詞と同じ動作を表すものがある.例えば,他動詞 popo' とそこから派生した鼻音動詞 mopo' はともに「衣類を洗う」という動作を表す.このような他動詞と鼻音動詞のペアには,次のような用いられ方の違いがある.

(i) 他動詞と異なり,鼻音動詞は動作の対象を表す語と共起することがない./(ii) (A) 当該の発話で,動作の対象を特定しようとしたり,発話の話題として取り上げようとする場合や,(B) (x) 動作の対象を表す語が,発話の直前の部分で明示されていたり,(y) 動作の対象が,話し手と聞き手の眼前にあったりして,「定」となっている場合は他動詞のみが用いられる./(iii) 動作の対象が不明である場合や,動作者の習慣や性質に表現の重点があって,動作の対象に言及する必要がない場合は,鼻音動詞が用いられる.