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海岸ツィムシアン語の「分断母音」の解釈とその問題点

笹間 史子(日本学術振興会)

海岸ツィムシアン語(北米北西海岸,ツィムシアン語族)には,「分断母音」とよばれる音がある.これは,間に声門閉鎖音をはさんだ,音色の同じ(または似た)二つの母音 ([VʔV]) をさす(例[bíʔιk] 'to lie').分断母音は,音韻的には声門化子音に後続された長母音 (/V:(C')/) と解釈される.しかしながら,この解釈に問題をなげかける二語 ([gwɛ́ʔɐ 'poor', [ʔáːʔɐ] 'yes') が存在する.この二語は /kwéːʔ/, /ʔáːʔa>/と音素表記されるが,この表記は,分断母音との音声的類似を反映しないし,さらに,音素配列的にも例外となる.

このような問題がおこった理由として,海岸ツィムシアン語がかつては長短両方の分断母音 (/Vː(C')/[VːʔV(C)] と /V(C')/[VʔV(C)]) を有していた可能性が考えられる.この区別が消滅した結果,二つが融合し,後者のように発音されるようになった,と仮定される.発表では,この仮説が,海岸ツィムシアン語・同系他言語の両方からのさまざまな資料により支持されることを示した.

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