現代日本語の述語意味論研究において避けて通れない「変化動詞」は,しばしば「その前後では対象の状態が変化を被っているという『特異点』をもつ限界動詞 (telic verb) である」というアスペクト的意味と結びつけられてきた.然しひとつの動詞があらわすアスペクト的意味はひとつではない.「3分で温度は80℃にあがる」では特異点をもった転移 (transition) をあらわすが,「はじめの3分間はどんどん温度があがる」では変化する過程をあらわしている.然も後者の場合は特異点をもたない変化である.これらを説明するのにアスペクト的多義説やアスペクト計算説が唱えられるが,これらの説はここには書ききれない理由があり不備である.寧ろ辞書においては各々の動詞のアスペクト的意味は未決定で,文解釈過程においてアスペクトのかたちと結びつくと考えるほうが自然である.