本稿は,アクセントによる音調の下降は音節の主音に置かれるという一般化を破っているかのように見える.以下のような複合語の存在について考察する.
伊藤(イトウ)+氏(シ)→ イトウ’シ,イト’ウシ
クレーン+車(シャ) → クレ’-ンシャ,クレー’ンシャ,クレーン’シャ
窪薗 (1995) は,これらの音列では,長音が2音節に分割される分析を行っている.しかし,なぜ,他言語にない長母音の音節間に分割という非常に有標な過程を,日本語は経なければならないのかが不明確である.分割なしにアクセントが説明できれば望ましいのはもちろんである.本稿では,最適性理論の枠組みを使って,音節間の分割なしで,これらの語のアクセントの事実を説明する.