「ほめ」への返答と「礼儀正しさ」の基準

野村 美穂子(文教大)

(1) 教師 A 「君の作文は宇がきれだね.」生徒 B 「いえ,内容がありませんから.」のような会話を聞いた場合,B について,謙虚で丁寧だと思う人と,失礼でかわいくないと思う人とに分かれる.これはなぜか.

「ほめ」への返答に関しては2種類の礼儀正しさがあると思われる.一つは (A) 会話の参加者間の関係のみと関わるローカルな礼儀正しさである.ここで返答者の注意の対象はほめ手のにちらを高く評価したいという)意図であり,返答者は (A) の配慮によりほめ手との関係を維持し得る.もう一つは (B) 会話の参加者をとりまく「世界」と関連するグローバルな礼儀正しさである.ここで返答者の注意の対象は「ほめ」の発言そのものの内容であり,返答者は (B) の配慮により「世界」との関係を維持し得る.(1) の B の発言は,(A) の基準は満たしているが,(B) の基準は満たしていないものと言える.