茨城県南西部で話されている水海道方言は,対格が有生格 (-godo) と無生格 (-φ) で形式的に異なる.この形態論的特徴を反映して,この方言では,標準語では許されない二重対格構文が可能である.対象と通路をともに対格で表す構文と所有者繰り上げ構文がそれである.前者は他の構文と同様語順が自由だが,後者は繰り込み依存回避と目標部位名詞句の述語隣接という2つの制約を満足させた語順しか許さない.義務的二次述語を含む構文は語順だけでなく,受動化や関係節化においても所有者繰り込み構文と共通の特徴を持っている.両構文は二重の依存関係をもつ名詞句を含む点で共通している.繰り込み依存回避は,主語-目的語繰り上げ (SOR) 構文の語順にも関与的である.なお,SOR 構文と他の構文では有生対格の名詞句階層上の分布が異なる.後者では有生対格は動物名詞までしか付属できないが,前者では具体名詞まで付属できる.