南唐の徐鍇が著した『説文解学繋伝』には,徐鍇と同時代人である朱翺の付けた反切があるが,伝統的な韻書の反切を用いていないため,当時の実際の発音を反映しているとされている.
本発表では『繋伝』における止摂諸順(支韻・脂韻・之韻・微韻)と,遇摂三等(魚韻・虞韻)における反切下字の混用について考察する.類似の音を持つ韻同士の反切下字の混用を取り上げて,反切の混用が示す音韻的揺れの実態と音韻変化との関係を明らかにし,更にどのような要因が作用しているのかを明らかにする.
反切下字の混用を観察する際,声調の区別や開合の区別(-u- 介音の有無)を考慮すると,止摂開口では反切下字の混同が平声で最も顕著であり,以下上声,去声の順で混用が少なくなる.遂に止摂合口や過摂三等では,反切下字の混同が平声で最も少なくなり,去声で最も顕著である.