本研究では,Shlonsky (1997) の主張では説明しきれない動詞移動に関するデータを指摘し,代案として Zwart (1997) で提案された素性移動の分析を適応することを提案した.一見するとヘブライ語の現在形の否定構文は Shlonsky (1997) の分析の反例となるように思われるが,オランダ語の主文・補文間に見られる動詞移動の非対称性と補文標識に現れる一致との関係を考慮に入れると,全く同じことがヘブライ語でも起こっているということがわかる.さらに,素性移動の分析をヘブライ語にも適用することにより導き出すことのできる帰結として,ヘブライ語の否定接辞の性質についての提案を行った.ここでは,なぜ否定接辞と動詞が必ず隣接していなければならないのか,という点に関して Shlonsky (1997) とは違った方法で原則的な説明を与えることを試みた.