ハンガリー語の使役構文の分析とその文法関係について

野瀬 昌彦(東北大大学院)

ハンガリー語の使役構文には,日本語の使役構文の「を」使役と「に」使役に相当する被使役者の文法的地位の交替現象が存在する.

(1)a.Énköhögtettem agyerek-et.
私は咳をさせた子供-対格
b.Énköhögtettem agyerek-kel.
私は咳をさせた子供-具格

ただしハンガリー語では被使役者が対格と具格で交替する.本研究ではハンガリー語の被使役者の文法的地位と使役構文の記述を行う.特に問題とする点は,ハンガリー語の使役構文について文法の上でどのように捉えられるかという点と使役構文の標示する文法関係についてである.先行研究やハンガリー語の文法記述では,使役動詞や被使役者の格の交替現象のみに注意が向けられてきた.これに対して,使役構文全体に視点を移すことと使役構文の文法関係について論じることを目的とする.

使役構文を文法の上で捉える方法として,因果関係の立場から把握することを提案する.そして,原因と結果との近接性に基づいて使役構文の文法的地位を確立する.ハンガリー語の使役構文は因果関係の近接の度合いに関して,かなり近接的な因果関係を反映していると考えられる.また被使役者の振る舞いに関しては,使役構文の標示する文法関係に注目する.ハンガリー語の使役構文では,「主語>直接目的語(対格)>斜格目的語(具格)」という文法関係の階層が立てられる.斜格目的語の具格は使役構文の被使役者と結びつき,因果関係の結果部分の解釈に関連していると考えられる.