オリヤ語の関係代名詞と疑問代名詞の意味

山部 順治(日本学術振興会)

本発表は,オリヤ語の関係代名詞と疑問代名詞にはこれまで(印欧語インド語派の言語の同語源語についての)研究文献では報告されていない諸用法があることを指摘する.そして,これらの2代名詞はそれぞれ(1)(2)のような意味を持っており,それらの意味によって使い分けがなされる,と論ずる.

(1) 関係代名詞は,それが表す概念が文の発話に先立って受け入れられている.

(2) 疑問代名詞は,それが表す概念が文の発話に先立って受け入れられてはいない.(すなわち,それが表す概念は文の発話によって導入されるか,文の発話時にもまだ導入されていない.)

つまり,2つの代名詞は,それが表す概念が,展開しつつある談話の世界において話し手の認識にとってどのような地位を達成しているかを表すものである.

オリヤ語では,ほかのインド語派の諸言語と同様,関係節で使われる不定語と疑問文で使われる不定語は異なる語幹にもとづく.前者は関係代名詞と呼ばれ,後者は疑問代名詞と呼ばれる.

関係代名詞の用法については,関係節を作る用法と譲歩節 ('no matter wh-') を作る用法が知られている.(これらの用法は,ヒンディー語の研究文献で記録されておりオリヤ語にもある.)譲歩節は,(ヒンディー語のそれとは異なり,)動詞が定形の場合だけでなく動詞が非定形の場合もある.これらのほか,原因を表す節,判断の根拠を表す節,間接疑問節などの述語補文を作ることができる.また,単文において不定の存在(「誰か」)や全量(「誰でも」)を表すこともできる.

オリヤ語の疑問代名詞は,疑問のほかに,不定の存在(「誰か」)や,非存在(「だれも(…ない)」)を表すことができる.

以上に述べたように,2つの代名詞は,その名前から示唆されるようなこれまで考えられている範囲よりも,広い分布をもつ.また,両者の分布の広がりには重なりが見られる.

発表では,2代名詞の分布の差や統語上同じ環境に現れるときの解釈の違いに注目して比較することにより,両者の基本的な意味を明らかにする.