日英語の名詞群省略の比較
―体系機能文法の観点から―

塚田 浩恭(関西外国語大短期大学部)

本発表では,Halliday and Hasan (1976) の4つの結束作用 (cohesion) の中で省略,特に名詞群省略の英語の枠組みを日本語にあてはめた場合,どのような相違がみられるのかを検討した.

日英語の名詞群省略は,それぞれ次のように図示できる.

図

英語の名詞群省略は,「右から」順に省かれる規則があるとされている.しかし,日本語の名詞群省略は,名詞群内の語順制約がゆるいため,英語とは全く異なったふるまいをすることを考察した.

日英語で最も異なる点は,日本語では,前置修飾語句が省略され主要部であるモノが残されうることである.つまり「左から」の名詞群省略がみられることである.これは,英語ではふつう同じ名詞は反復されないという規則があるのに対し,日本語ではこの規則が弱いので,モノが具現され修飾語句が省かれるケースがみられるのである.また日本語では,英語であまり起こらない,類別詞が残されモノが省略される現象が頻繁に生じる.「右から」の省略も起こっているのである.さらに直示詞は,きわめて任意的な要素なので省略とはみなさず,また数詞は,モノに相当するような独立した機能詞と捉える.形容詞のところでは,省略は起こらないが,代用詞「の」を用いて代用が生じている,