日本語/English
日本言語学会について
入会・各種手続き等
学会誌『言語研究』
研究大会について
学会の諸活動
その他関連情報

日本語「V-てあげる」構文と英語二重目的語構文の対照比較

清水 啓子(明治学院大大学院)

日本語の「あげる」という本動詞は補助動詞化して「V-てあげる」という複合述部を作る.この「あげる」は従来『恩恵を表す補助動詞』としてひとくくりに分析されてきたが,実際には,次のような関連はするが別個とすべき2つの用法(1)(2)に区別できる.
1)ジョンはケンにネクタイをしめてあげた.(あげる(1))
2)ジョンはケンの代わりに銀行へ行ってあげた.(あげる(2))
(1)(2) の意味・統語特徴は以下のようになる.
(1):「NP1はNP2に [NP3をVて] あげる」NP3がNP2に広い意味で所有されるような結果状態をNP1が引き起こす事態を表す.先行動詞V単独ではニ格を取れず,recipientを示すニ格は補助動詞「あげる」が与える.
(2):「NP1は(NPを)Vてあげる」行為が行為者NP1から他の人物への恩恵授与であるという行為者(話者)の主観的態度を表す.恩恵を受ける人物をニ格で付加できず,adjunctあるいは文脈上で特定される.先行動詞Vは+volitional.

英語二重目的語構文と意味が重なるのは,客観的事態構造に関与する (1) の用法だけである.「あげる」の本動詞→(1)→(2)という変化はお互いに重なる部分を持った文法化連鎖をなしている.(1) から (2) への意味拡張は文法化現象でありかつ意味の主観化でもある.(1) の用法がニ格を取るVと共起した場合(ジョンはマリに花を送ってあげた)に,「あげる」の持つ所有移動という意味要素が背景化し,恩恵授与という含意が前景化し表意になる,と考えられ,この場合の「あげる」は (2) の用法により近くなっている.

プリンタ用画面

このページの先頭へ