今回筆者が慶尚南道方言の下位方言の一つである慶尚南道の昌寧方言を対象に,アクセントの体系化を試みた結果,今まで報告されている他の慶尚道方言とはかなり異なったアクセント体系を成していることが観察された.さらに,一部のアクセント型に所属する語彙にも幾つかの新たな特徴があることが分かった. 昌寧方言のアクセント体系を表にまとめると次のようになるが,この表における A3型,A4型,A5型,B3型,B4型が今回の研究で新しく見つかったもので,これらの型が加わることによって,昌寧方言のアクセント体系は大きくA, B, Cの三つのグループに分けられることになる.
1音節 | 2音節 | 3音節 | 4音節 | 5音節 | |
A0型 | ◎ | ◎◎ | ◎◎○ | ◎◎○○ | ◎◎○○○ |
A3型 | ◎◎◎ | ◎◎◎○ | ◎◎◎○○ | ||
A4型 | ◎◎◎◎ | ◎◎◎◎○ | |||
A5型 | ◎◎◎◎◎ | ||||
B0型 | ↑○: | ○◎ | ○◎◎ | ○◎◎◎ | ○◎◎◎◎ |
B3型 | ○◎◎○ | ○◎◎○○ | |||
B4型 | ○◎◎◎○ | ||||
C1型 | ● | ●○ | ●○○ | ●○○○ | ●○○○○ |
C2型 | ○● | ○●○ | ○●○○ | ○●○○○ | |
C3型 | ○○● | ○○●○ | ○○●○○ | ||
C4型 | ○○○● | ○○○●○ | |||
C5型 | ○○○○● |
まず,昌寧方言のアクセント型の個数についてまとめると,1, 2音節語では n+2 個,3音節語以降には (n-1)+(n-2)+n=3n-3=3(n-1) 個となり,他の慶尚道方言に比べて昌寧方言の方が多くの型を区別をしていることになる.
次に所属語彙の特徴としては以下のことが挙げられる.
1. 3音節以上の語には,○●○, ○○●○, ○○○●○のように最後から2番目が高い単語が圧倒的に多い.さらに,これらの単語は,一番最後の音節が,/i/ であるものがかなり多い.
2. 3, 4音節語の A3 型と4音節語の B3 型は他の型に比べて語例が少ない.特に,3音節語における A3 型の語例は極めて少ない.
3. 4音節語における B3 型には,~/ǰuɨi/ 「~主義」,C4 型には,~/namu/ 「~木」という語が多い.
4. 3音節語における A3 型や4音節語の A3 型に属する語には国名や都市名が多い.なお,国名や都市名でない3音節語のA3 型は A0 型と交替を起こすが,国名や都市名は A0 型と交替を起こさない.しかし,4音節語の A3 型に属する国名や都市名はすべて A0 型と交替を起こす.
今後の課題としては,主に昌寧方言における複合体言及び用言のアクセント体系化に焦点を当てて研究を続けていきたい.