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ギリシア語の名詞にみられる母音交替について

児玉 茂昭(京都大)

ギリシア語の語根名詞 ἀνήρ φρήν からは,合成によって εὐήνωρ, ἄφρων などの形容詞が派生する.これらの形容詞の,語末母音の音色は,元になった語根名詞の語根母音の音色と異なっている.この音色の違いについて,本発表では以下のような説明を行なった.

印欧祖語の語根名詞の行なっていた母音交替は,アクセントが,強語幹では語根に,弱語幹では格語尾に落ちるタイプと,強語幹でも弱語幹でも語根に落ち,強語幹は母音 o で,弱語幹は母音 e で特徴付けられるタイプの二つが,現在再構されている.前者のアクセントの移動がみられるタイプと,後者のアクセントの移動がみられないタイプについて,各分派言語での形式と,再構された形式とを示す.

Gk.nom.sg.Ζεύςgen.sg.Διός
Skt.nom.sg.dyáuḥgen.sg.diváḥ
nom.sg.*dḭéu̯-sgen.sg.*diṷ-és
Gk.(Doric)nom.sg.πώςgen.sg.ποδός
Lat.nom.sg.pēsgen.sg.pedis
nom.sg.*pód-sgen.sg.*péd-s

᾽ανηρ, φρήν は,強語幹では語根に,弱語幹では格語尾にアクセントが落ちるという母音交替を行なっていたが,派生形容詞では,強語幹でも弱語幹でも語根にアクセントが落ち,強語幹が o で,弱語幹が e で特徴付けられている母音交替を行なうタイプに,母音交替が移行したと考えられる.必面の場合については,語根名詞(a)から派生形容詞(b)のような母音交代のタイプの変化が生じたと考えられる.

(a)nom.sg.*h2nḗrgen.sg.*h2n̥r-és
(b)nom.sg.*h2nṓrgen.sg.*h2nér-s

このような母音交替のタイプの変化がなぜ生じるのかは,現在のところ不明である.しかし,接辞を持つathematic noun にも,派生形容詞の要素となった時に,このような母音交替のタイプの変化が生じるものがある.このことから考えて名詞から形容詞を派生させる時に,母音交替のタイプの変化が,なんらかの機能的役割を果たしていたことが示唆されているように思われる.

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