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ブヌン語(南部方言)における否定文の統語構造

野島 本泰(東京大大学院)

ブヌン語というのは,台湾の中部山地に語されるオーストロネシア系の言語で,パイワン語群に属する言語の1つである.

ブヌン語(南部方言)の否定文では,否定を表す要素(否定辞)の nii が用いられ,語彙的な内容を表す動詞(語彙動詞)はその後ろに現れる(例文1).例文1を見る限り,たとえば近隣のアタヤル語やセデック語(例文2)の否定文によく似ている.

(1) ブヌン語
nii=ikkau-diip.
Negator=Pivot.1sg(Actor Pivot)go-there
'I didn't go there.'
(2) セデック語(タロコ方言)
ini=kuusa
Negator=Pivot.1sg(Actor Pivot)go
'l didn't go.'

セデック語の否定辞は,後ろの語彙動詞(これが本動詞)とともに狭い意味での「動詞句」を構成し,そこで修飾語としての働きをしているものと考えられる.これに対し,ブヌン語の否定辞は,軸語名詞項 (P) と補文 (Q) を従部としてとる述語本体だと分析するのが妥当である('As for P, it is not the case that Q' とでも訳せるような意味をもつものと考えられる).本発表では,ブヌン語の否定文が上の例文のようにセデック語のそれと一見似たものに見えながら,統語上はまったく異なる構造を持つものであり,以下の2点を根拠に,否定辞が主節の述語であり,後続の動詞あるいは名詞はその補文における述語であると分析する.

(A) セデック語の場合,否定辞と後ろの語彙動詞の間に現われるのは接語類に限られる.これに対し,ブヌン語の否定文では,否定辞と後続の語彙動詞の間には,付属代名詞だけでなく,full NP の軸語名詞句や時間詞など多種多様な要素が現われうる.

(B) 否定辞が後ろの語彙動詞と直に接する場合に限り,補文標識 tu が現れる.

しかしながら,その一方で,否定文を典型的な補文構造と比べた場合に観察される,否定文独自のふるまいのいくつかにも言及する.

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