台湾語(台湾地区の漢語閩南語)では,「所有者―所有物」の関係にある名詞を繋ぐ方法に,次の2つがある.(単語などにつけた数字は声調を表す.)
リンカー型はcliticのようなリンカー e0を用いるが,複数代名詞型は用いない.複数代名詞型では,所有者は必ず人称代名詞複数形である.指示物が単数の場合でも複数形を用いる.例えば(1)の例 gun1 は文字通りには「私たち」を意味するが,文脈によっては「私」を指すことも可能である.リンカー型には所有者に関するこのような制限はない.
複数代名詞型の特徴は次の通りである.必要に応じてリンカー型と対照する.
[1] 複数代名詞型を用いることができる状況は,リンカー型を用いることができる状況の一部分である.
(i) 所有者.複数代名詞型では所有者は,指示物の数に関係なく,必ず人称代名詞複数形で表す.リンカー型にはこの制限はない.
(ii) 所有物.複数代名詞型では所有物は親族,同僚,上司,部下,友達,先生,弟子,会社,学校などである.リンカー型にはこの制限はない.
[2] 複数代名詞型は,所有者として現れる人称代名詞複数形で表している範囲,またはその一部を指す場合に使える.
[3] 複数代名詞型は,所有者と所有物名詞の間が,連体節などの,所有物名詞への修飾語によって隔てられる.
複数代名詞型の解釈について先行研究では複合語,すなわち形態論レベルの現象,であると見る考え力がある.しかし例文(3)が示すように他の語や節が割り込むことが可能である.従って複合語と見ることは不適切である.統語レベルの現象として捉えるのが適切である.