日本語の関係節には,主要部が拙文内に位置する主要部内在型関係節(以下「内在関係節」)(1)があることはよく知られている.
Kuroda 1974, 75-76, 76-77以降,内在関係節は(1)のような例文を典型とし分析されてきたが,本発表では,内在関係節は2種類に分類されるべきであると主張する.すなわち(1)のように主要部の性質に変化のないタイプと,(2)のように主要部の性質が変化するタイプ(変化―内在関係節)である.
この2種類の内在関係節の違いが端的に表れる例は,以下の3つである.(i) 通常の内在関係節は決定詞「その」による修飾を許さない(Ohara 1994)が変化―内在関係節はそれを許す.
(ii) 通常の内在関係節は制限関係節による修飾を許さないが,変化―内在関係節はそれを許す.
(iii) 通常の内在関係節はその分布に制約がある (Hoshi 1995) が,変化―内在関係節は基本的に名詞句の現れる位置に自由に現れる.以下道具格の例を挙げる.
(i)-(iii) で示した変化―内在関係節の特徴は,補文に空所を持ち主要部が代名詞 (pronominal) の「の」である自由関係節(例(3))と共通する.
(i)-(iii) に示した両者の内在関係節の違いは関係節の右端の「の」の違いに起因すると考えられる.Kuroda等の診断法に従えば,変化―内在関係節の「の」は自由関係節の「の」同様代名詞であるが,通常の内在関係節の「の」は代名詞ではない(本発表ではこれを虚辞(expletive)と仮定した).
両者の内在関係節の違いは意味とアスペクトの違いとも平行する.通常の内在関係節には主要部の性質変化がないが,変化―内在関係節には主要部の性質変化がある.通常の内在関係節はKurodaの指摘通り副詞的な解釈を持つが,変化―内在関係節の場合は,むしろ補文全体で表された変化の結果のものという解釈を持つ.また通常の内在関係節は補文のアスペクトに制約がなく「-る形」も許されるが,変化―内在関係節の補文には完了の「-た形」のみが許され,補文内のアスペクトは常に結果相(resultative)である.