現代日本語動詞の連用形とテ形の談話機能の違い

北上 光志(京都産業大)

日本語教育辞典(1993)では,「学校へ行き,先生に会う」のように,連用形で文をいったん打ち切り,更に文を展開させていく用法を中止法と呼び,一方「学校へ行って,先生に会う」のようにテ形を使って文を繋いでいく用法を接続法と呼んで区別している.小説などでは,連用形とテ形のどちらを使っても文意が変わらない場合がある.従来の動詞の連用形とテ形の談話研究は,このようなどちらでも用いられる環境での両者の使い分けについての積極的な考察を行っていない.そこで本発表は新たな視点からこのような環境での両者の使い分けのメカニズムを明らかにすることを目的とする.物語(小説)における動詞の連用形とテ形の使用域に着目し,両者どちらでも用いることができる環境での談話的働きの違いを二基準を提案し,分析した: 1) 動詞の連用形とテ形の使用分布を,a) 直接話法構文,b) 発話表現(直接話法構文および発話文)の先行文(直前,二つ前,三つ前,四つ前),c) 発話表現に挟まれた文,d) 発話表現の後続文(直後,二つ後,三つ後,四つ後),e) その他の文,において調べる.2) 動詞の連用形とテ形の使用分布と物語の重要人物(発話回数によるシチュエーションでの重要人物特定)との関係を調る.

一般に,物語における発話表現は,話の山場に多く用いられ,緊張感を与えたり,劇的効果を出したり,foregroundの特徴を多く持っている.言い換えれば,発話表現は重要な文脈のマーカーとなる可能性が高い.ところで,分析の結果,テ形の方が,連用形よりも発話表現の近くで多く用いられ,また,テ形の方が,連用形よりも重要人物の行為を表す場合に多く用いられることが明らかになった.このようなことから,本発表は動詞の連用形とテ形のどちらを用いても文意が変わらない場合での両者の使い分けを,次のように結論づける.『重要な情報であると判断した場合には,書き手は,動詞のテ形の方を連用形よりも積極的に用いる傾向がある』