「は」と「が」の意味と認知様式について

竹林 一志(学習院大大学院)

本発表では,現代日本語の助詞「は」「が」の本質的意味を考察し,そこに如何なる人間の認知様式が反映されているのかという問題について考えた.

「は」の意味については,国広(1962)・大野(1978)に代表される「既知説」と久野(1973)に代表される「主題・対照説」とに対する柴谷(1990)の批判を妥当とした上で,柴谷説(=「主題分離・結合説」)を検討し,「主題分離・結合説」は,「XはYだ/~する.」のような構造の場合には問題がないようだが,「助詞+は」の場合や「動詞連用形+は」の場合などについては説明困難であるとした.そして,「は」の本質的意味を次のようなものと考えた.

「は」の本質的意味は,認知対象Xを特に取り立てるところにある.

「が」の意味については,国広(1962)・大野(1978)に代表される「未知説」と久野(1973)に代表される「総記・中立叙述・目的格説」とに対する柴谷(1990)の批判を妥当とした上で,「「が」には主語を示すという統語的な機能のみが存する」とする柴谷説(=「主語説」)について,「主語」という概念が明確に規定されていない点で問題があるとした.そして,「が」の本質的意味を次のようなものと考えた.

「が」の本質的意味は,認知対象Xが(clauseレベルにおける)認知の中心であることを示すところにある.

次いで,以上のような「は」「が」の本質的意味には,それぞれ次のような認知様式が反映されているとした.

「は」の本質的意味に反映されている認知様式…figure/ground(図と地)

「が」の本質的意味に反映されている認知様式…centralization(中心化)

これらのうち,"centralization"とは,本発表で初めて提案された概念であり,「或る認知対象Xを認知の中心に位置づける認知様式」と定義した.そして,この"centralization"は,「ゴキブリ!」のようなタイプの一語文や英語の"locative inversion(場所句倒置)"構文にも反映されているとした.