ヘレロ語動詞のアクセント

湯川 恭敏(東京大)

ヘレロ語 (otjiherero) は,ナミビア中部とボツアナ西部に住むヘレロ族と,ナミビア西北部(カオコランド)に住むヒンバ族によって話されるバントゥ系の言語である.

この発表では,不定形と,直説法の内の主なもののアクセントを見る.この言語の動詞自体は,バントゥ語本来のアクセントの型(A型・B型)の対立を保存している.

この言語の動詞のアクセントの主な特徴は,次のごとくである.

(1) A型は型としての統一性がやや弱い.

不定形 (oku+語幹+a) で例示すると,不定形で語幹+ a の冒頭を含む部分が高いことを特徴とするA型において,語幹+ a が2音節だと okuzírá「答える」,okupúra「尋ねる」,3音節だと,okuwóvísa「だます」,okuvátera「手伝う」のような対立がある.

(2) アクセントのみで活用形が区別される典型的な例がある.

例えば,一年以上前の行為をあらわす形も昨日の行為をあらわす形も,構造は主格接辞+a+語幹+ire であるが,たとえば,前者は mbazíríré 「私は答えた」(A型),mbatonéné「私はなぐった」(B型),後者は mbázíríre,mbátóneneの如くである.

(3) 語尾が V (すぐ前の母音と同じ母音)である形の場合,A型は V が a かそれ以外でアクセントが異なり,B型は(大まかにいえば)語幹+V が短いか長いかでアクセントが異なる.たとえば,たった今の行為をあらわす形の場合,次の例が示す如くである.

mbáwóvísá「私はだました」vs.mbávátére「私は手伝った」(A型)
mbátóno「私はなぐった」vs.mbánigótá 「私はつねった」(B型)

(4) その他,妙に複雑な箇所があちこちにある.