本発表は,インドネシア語の時を表わす従属節の中で,接頭辞 di- が付加された動詞が用いられ,その主語が省略されている文を取り上げ,その主語の省略に談話・機能論的な要因が関わっていることを明らかにするものである.
(1) | a, | Perminantaan | itu i | susah | sekali. | |||
依頼 | その | 困難な | とても | |||||
主語 | 述語 | |||||||
旧情報 | 新情報 | |||||||
b, | Sesudah | φ i | ditolaknyaii, | diaii | mengatakan | sebab | itu. | |
~した後で | その依頼 | 彼が断る | 彼 | 述べる | 理由 | その | ||
接続詞 | 主語(省略) | 述語 | 主語 | 述語 | 目的語 | |||
旧情報 | 新情報 | 旧情報 | 旧情報 | 新情報 | 新情報 | |||
前の文脈から予想されうる情報 | 最も重要な情報 |
その依頼は非常に困難だった.彼はそれを断り,その理由を述べた.
上記 (1) は,ある小説の一部であり,二つの文から或るテキストである.そして,その二つ目の文 (1) b の従属節中で主語が省略されている.
これは,ある一人の人物の一連の動作について,前の文から予想されうる情報を従属節で,それに続くより重要な情報を主節で提示するという情報構造を作るために,従属節中の動詞句として di-nya の形が選択され,それに伴い主語となった要素が,文脈上の前後の関係から自明の容易に復元されうるという特徴を持ち,なおかつ何の特別な表現意図をになってもいないために,その前の文の主語を先行詞に省略されているということである.