本発表では最適性理論によって中期朝鮮語の母音調和を分析し,その音韻過程の持つ特徴を明らかにした.中期朝鮮語の母音調和は調和素性 [-ATR]が支配する音韻過程であり,この調和素性が形態素に浮遊素性として存在していることにその特徴があることを明らかにした.中期朝鮮語の母音調和は基本的には *RTR/HI, RTR/LO, Parse [-ATR] >> SPREAD >> A-R, A-L >> NO-GAP のような制約とそのランキングによって説明することが出来るが,母音調和の例外となる語彙や揺れている語彙が存在する.このような語彙は調和素性が存在するが語幹の母音がすでに変化を被ってしまっている場合,接辞の母音がすでに F 素性を持っている場合などのために例外的振る舞いをするが,このような語彙が示す母音調和は *RTR/HI 制約と SPREAD 制約,NO-GAP 制約と SPREAD 制約,Parse 制約と SPREAD 制約のランキングが逆になる制約のランキングが交替することによることが明らかになった.
このことから,中期朝鮮語の母音調和は制約のランキングがいくつか並存していることから,この言語では母音調和が確固としたものではないことが証明された.特に NO-GAP 制約のランキングが高くなることで,語幹末の母音が母音調和を支配するようになり,母音調和が局所的になる.これは現代朝鮮語の母音調和の姿を示している.
さらに朝鮮語の母音調和を最近提案された Correspondence 理論で分析を試みその問題点を明らかにした.この理論で母音調和を説明するためには制約として MAX [feature] が必要であること,浮遊素性の存在を認めねばならないことを論じた.このような理論の拡張によって現代朝鮮語の動詞の活用にみられる母音調和と Ideophonesに現れる母音の交替を説明できることを示した.