存在動詞「ある」と「いる」
―PROCESS/RESULTをめぐって―

高橋 純(学習院大大学院)

Tobin (1993) の論を援用し:
(1) 「アル」は,有標形で特徴 RESULT を要求し,その状態は,結果・目標・帰結・終結・目的地・限界点を示す終点の観点から見られなければならない.
(2) 「イル」は,無標形で,意味特徴 RESULT を特に要求する必要がなく,またその特徴に対して中立的である.つまり,その状態は,PROCESS/RESULT の両方の観点から見られてもかまわない.

以上のように存在動詞「アル」と「イル」の違いをアスペクトの違いとして定義した.そして,このアスペクトの違いが両動詞の意味に関係しており,有標形の「アル」はその状態を全体的に捉えているので,「a ガ アル」という形式は《a を部分集合としながら,それと対もしくは組になる a´(補集合)を含意して全体集合 A を構成するように存在する》と分析でき,従来 (i) ある範囲に含まれているという言い方をする場合 (ii) 「所有」関係を表す場合 (iii) 昔話のスタイルとして分類されていた非情の名詞との共起関係を一括し,更に補集合 a´ とガ格名詞の a との等質性ということを考慮に入れることで非情名詞と共起するアルも統一的に説明した.

そして,無標形として PROCESS/RESULT の両観点から捉えられる「イル」に関しては,《来て行き去る間の一時的な存在》であると定義し,このように捉えることによって来ル,イル,行クの敬語形がイラッシャルという一形式で表されること,更にガ格名詞の移動性を考慮することで,有情名詞がその典型的な共起名詞となることを説明した.

また,上記のように「アル」と「イル」を定義することで,両動詞の最小対であるテイル形(継続相と結果相)とテアル形(結果相のみ)のアスペクトの不均衡な現れ方も説明した.