古典シリア語における動詞の完了形と存在動詞 hwa:' との複合形式について

楢崎 勝則(京都大研修員)

古典シリア語(以下シリア語)は一般動詞の完了形,未完了形,分詞と存在動詞 hwa:' の完了形,未完了形を使って豊富な表現形式を作り出した.ここではその形式のうち動詞の完了形と存在動詞の完了形とで作られる複合形式を取り扱う.この形式は過去完了またはアオリストの時制を示すと言われたり,hwa:' の付かない動詞の完了形と意味の差は無いと言われたりして一定しない.そこで筆者はシリア語の新約聖書の中の該当する箇所154例とギリシャ語新約聖書の対応する表現を比較した.その結果は次の通りである.

過去完了3例アオリスト分詞27例
過去完了相当形式5例アオリスト77例
現在完了2例現在完了分詞1例
現在完了不定詞 2例未完了過去25例
現在分詞11例現在不定詞1例

この結果を見ると,問題となる動詞の複合形式が過去完了と対応しているとは全く言えない.またアオリストを示すとも断定はできない.またシリア語動詞の単なる完了形と対応しているとも言えない.未完了過去に対応する例が無視できないからだ.

モーゼ五書内の該当形式は僅か3例しかない.このことから旧約聖書のシリア語を二世紀のものを,新約聖書のシリア語を五世紀のものを表すと仮定すると,時代が新しくなると該当形式が急増すると言える.

過去完了を示すものとして作り出された動詞の複合形式が次第に使用領域を広げたという仮説を立てる.すると該当形式が旧約聖書で過去完了を示すもののその例は極端に少ないという事実,新約聖書では広範な意味を持つ事実が説明できる.