満州語文語の接尾辞 -ngge の用法について

木村 滋雄(北海道大大学院)

満州語文語の接尾辞 -ngge は,動詞連体形に付いた場合,「~すること」等の意味を表す.久保 (1984) によると,この動詞連体形+-ngge の用法には (1) 補文,(2) Headless relative clause 「主名詞のない関係節」,(3) 分裂文,(4) 主題節がある.この内,(4) 主題節の用法では動詞連体形+-ngge の構成する節が,後続する文の構成素とは考えられないとされる.

この分類に従うと,(4) 主題節の用法に含まれる例がある(例(1)).だが,例中の動詞連体形+-ngge は,主題を表すというより副詞節を構成している.これは,連用用法として,(4) 主題節の用法から分けるべきだと考える.

次に -ngge が発言・思考を示す動詞に付く例があるが,その位置づけは久保の分類では明らかでなく,別の用法として立てることができる(例(2)).この用法には発言者を表す名詞句等と共に節を構成し,発言・思考の引用の部分を導くという機能がある.ただ動詞 se- 「言う」は他の発言・思考の動詞と異なる.serengee (se-+-re 現在連体形語尾 +-ngge) は節を受けず,名詞句を受けることがある(例(3)).これは動詞連体形 +-ngge の用法の中でも例外的である.

(1) tere juwe tumen cooha be gidafi wame wajirengge edun buraki toron uthai nakaha.
「その二万の兵を敗り殺して殲さんとするとき,風姻塵乃ち止みぬ.」

(2) u wang ni henduhenngge, minde dasara amban, juwan niyalma bi sehebi.
「武王が述べること,私に治める大臣が十人いると言っている.」

(3) yan hūi serengge, tacire de amuran bihe.
「顔回というものは,学ぶのを好んでいた.」

参考文献

久保智之 1984 「満州語文語の -ngge について」『九大言語学研究室報告』5号