中国語と英語の言語現象には,対象を統合的な構成メンバーの単一的存在と見るか,離散的なメンバーの複合的存在と見るかというイメージスキーマにより,差異をみることができるものがある.中国語の進行表現には,「着」か「在」が使われるが,前者は「他在路上慢慢地走着」のように,すでに開始された動作が今どのような持続的過程や状態にあるかという様相をいうときに用いるが,持続とは中断のないまとまりとしてとらえることなので統合的な視点の表現とできる.後者は「他在作甚麼呢?」や「他在打棒球」のように今現に何の動作が行われているかという進行中の動作の種類を強調するときに用いるが,種類は単一ではないので離散的な視点の表現とできる.また,「着」は全体描写,「在」は局所叙述ということもできる.さらに,中国語で動詞を重ねると,時間量の少なさをいう「看看書,下下棋」のように動作行為を全体的にとらえてそれが多次であることを表したり,動作量の少なさをいう「伸了伸舌頭」のように動作行為の一断片を単位ととらえて複数回繰り返される一連の行為を表す.前者が統語的,後者が離散的なイメージスキーマによると考えられる.また,英語で hear, see につく不定詞と分詞の差異,shot ~/shot at ~, swim~/swim in ~, send ~ ~/send ~ to ~ の他動性の有無や二重目的語文,総称定冠詞と総称不定冠詞の相違,dream, know につく of/about の意味などの差の説明にも,この見方は有効と考える.これらは,時間を排除した単一的な事象として「地」の上で「図」が重なり「地」が「図」の間に嵌入しない summary scanning か,時間軸に沿った連続的過程による事象として「地」の上で「図」の相対的位置が変化し個々の「図」の間に「地」が入る sequential scanning かの,Langacker による認知モードの違いと並行的とできる.こうした異言語間で類似した視点の分析が有効なのは,注目すべきと考える.