本研究は,単文の構造について,3言語共通の枠組みを設定して,日本語,韓国語,樺太アイヌ語の3言語を比較対照して,各言語間の形式の面での類似点や相違点を明らかにしょうと試みた.まず,J, K, A の単文の述語の構造を規定し,述語を構成する各形態素をはっきり規定してから,各形態素の接続の仕方を法則化するという方法で3言語の比較対照をより容易に,より正確に行うことを目指した.
まず,日本語の述語の構造を,(1) 動詞述語節 (2) 形容詞述語節 (3) 名詞述語節の3つに分けて,それぞれの述語節の構成要素を抽出した結果,以下のような形態素が得られた.
動詞述語節: 語幹 (V),後接辞 (s1, s2, s3),前接辞 (p),語尾 (e),助動詞,助動詞連語 (aux),補助動詞 (ac),終助詞 (f) 形容詞述語節: 詞語幹 (a),後接辞 (s),語尾 (e) 名詞述語節: 語幹 (n),指定辞 (d)
次に,これらの形態素の配列規定を設定して,3言語の比較対照を行った結果,以下のような項目において,興味深い類似点や相違点が分かった.
(1) 動詞と形容詞の区別について,
(2) 前接辞と後接辞の付きかたや意味について,
(3) モダリテイーの表現手段について,
(4) 否定表現について,
(5) 疑問表現について,
(6) 形態素配列規則について
これらのことを考えると,膠着性の色濃い日本語,韓国語と抱合的言語であるアイヌ語とは,形態素の続きかたにおいて相違が見られるが,その相違は,語幹と語尾が融合してしまう屈折語との違いほど本質的ではない.だから,この3言語間では単に語彙レベルの借用関係だけでなく,文法的形態素も相互借用が起こりうるのではないだろうか.
以上を総合すると,日本語とアイヌ語が両極にあって,その中間に韓国語が位置しているということができるのではないだろうか.