本発表では,英語の与格交替現象を取り上げ,特に叙述名詞を直接目的語に取る GIV E構文 (Periphrastic Verbal Construction) に焦点を当て,
i) PVC 自体の意味特性及び当該構文に生起する叙述名詞の特性をどのように捉えるべきであるか
ii) 特にコンテクスト的要因が働かない限り前置詞付き与格構文という交替形を持たないのは何故か
という問題を考察する.PVC の典型例は (1)-(2) に示す通りである.
(1) a. Chris gave Pat a kick.
b. *Chris gave a kick to Pat.
(2) a. Chris gave Pat a push.
b. *Chris gave a push to Pat.
結論的には,Goldberg (1992, 1995) の構文論の中で中心的な役割を果たしている系統的メタファー (systematic metaphors) による拡張理論の説明では不充分であることを指摘し,被作用性 (affectedness) の観点から説明することの有効性を主張する.また,次の (3)-(4)から,いわゆるプロトタイプ的な GIVE 構文のスキーマ的構造を保持,継承していると考えられると分析し,その上で先に述べた被作用性の原理が働いていることを示したい.
(3) a. Chris kissed Pat.
b. Chris gave Pat a kiss.
(4) a. Chris killed Pat.
b. *Chris gave Pat a kill.
尚,本発表では Goldberg の構文論的分析と平行して,Pinker (1989) の交替獲得理論にも焦点を当て,Pinker 自身,敢えて (5) のタイプの二重目的語構文とは別枠で扱うことを示唆している点について言及し,検討を加える.
(5) Jack gave his daughter an inferiority complex.