序:人の感覚には,視覚,聴覚,触覚,嗅覚,味覚の五感があると言われるが,実際には,体の動きを関節や筋肉の活動などから直接知覚する運動感覚を加える必要がある.人の態度や物の様子を示す擬態語にも動作や触覚などに基づいたものが多く見られ,擬態語は人が感覚によって捕らえた経験を言語音を用いて写し取ろうとする語彙クラスと考えることができる.
仮説:擬態語の音と意味の間に関係があるという前提の下に,人の感覚経験と言語音とは,言語音を産出する際の調音器官に発生する感覚が仲介をしている,という以下のような仲介メカニズムを考えてみたい.
言語音〈-〉調音器官の動き〈-〉調音器官の動きに伴う感覚〈-〉感覚一般
実験:この仮説を検証するため,簡単な擬態語を用いた実験を行った.主な課題は,日本語を解しない人々に漫画と短い英語の説明によって状況を提示し,3つの擬態語のうち正しい語を選んで貰うというものである.被験者は日本語話者の後について擬態語を発生する調音グループと耳で問くだけで判断をする音声グループとに分けられた. 結果:どちらのグループも偶然では説明されない確率で正しい擬態語を選んだが,それぞれの質問への回答パターンをχΛ2検定した結果を比較してみると,正しい擬態語を選ぶ確率は,調音グループは8/15,音声グループは,3/15となり,2つのグループの間には大きな差が見られた.
結論:実験結果から,日本語を話さない人々でも音と感覚との間の関係を理解することは可能であり,さらに擬態語を発音することによって判断が助けられるという結果が得られた.これは仲介メカニズムの存在を支持するものであり,擬態語の意味のメカニズムの解明の手がかりとなるものである.