補助動詞の多岐にわたる意味と,動詞テ形を中心とした先行成文との関係については,従来それぞれの表現ごとに詳細な記述が行われてきた.しかし一方で,補助動詞の意味と文法的特徴の間には,複数の補助動詞にまたかる一定のパターンが認められる.本論文においては,動詞テ形+アル/イルに焦点をあて,時の副詞との共起関係,動作主の生起可能性,現象文から判断文への転換の三点について検討し,これらの特徴の関係には,アル/イルに共通のパターンか存在することを指摘する.そしてそのパターンが,階層構造仮説(三上 (1953),南 (1974),田窪 (1987) 他)にもとづく補文構造において捉えられること,補助動詞の多義性はそれか階層のさまざまなレベルに現われるために生ずることを主張する.