「どんどん」と述語

小西 正人(京都大大学院)

現代日本語の,変化述語をもつ「どんどん」文には次の3つの意味がある.

  1. 変化程度の進行を叙述(例:柿がどんどん赤くなる)
  2. 変化部分・範囲の進行を叙述(例;どんどん穴を埋める)
  3. 複数の個体について叙述(例:どんどん荷物が届く)

これらの意味の違いは,修飾表現「どんどん」と述語が共謀して生じてくるのである.そして,程度の進行の意味は述語が方向性を伴うスケール(尺度)をもつものであることが,部分・範囲の進行の意味は述語が参与者の内部に不均質を認めるものであることが(そして参与者は「内部」をもつということが),さらに「どんどん」文全体としては何らかの進行をあらわすことのできるような述語であることが求められる.それ故,文脈や共起語句によってこれらの可能な解釈を制限することができる/ことになる.或いはこれらの「解釈の型」が決まると,変化を必ずしも含意しない動詞であっても同じ変化述語文としての意味をあらわすのである.絶対的にそこにあるのは「事象の型」であり,文や動詞(句),参与者はその型に合うように解釈されるのである.ということを発表した.