話し手にとっての事実,日常生活の中の事実

渡部 学(シンガポール国立大)

本発表では,話し手が特定の言語形式とともに発話事態の事実性をマークしていくような談話モデルを提案した.また本発表では談話内で事実として扱われた内容を「話し手にとっての事実」と呼び,日常生活の中の事実という語とは異なると考えた.「話し手にとっての事実」とは,話し手の主観的な認識の過程であり,話し手が談話(即ち「話し手にとっての事実」)をダイナミックに構成していく過程である.

本発表では,具体的な言語形式として,モダリティーを示すハズ,ワケ,そして逆接の接続関係を示すケド,ノニの形式を中心に考察した.そして事態にはその事実性が(意味的な特微から) a priori に決まっているものと未定のものがあり,ワケ,ノニは発話時点において話し手が事態を「話し手にとっての事実」として談話の中に位置づける形式であると論じた.