日本語には形態上3種の「する」があり,次の構造と項構造(AS)を持つと考えられる.
(1) イ. [V [NP 修理][V する]] AS ( )
ロ. [VP [NP [VN 修理]]を[V する]] AS (動作主, __)
ハ. [VP [NP かくれんぼ]を[V する]] AS (動作主/経験者, 対象)
イの「する」はあらゆるVNに付き(複合)動詞を作る「動詞化辞」であり,単に時制を表し,項構造には寄与しない.ロは「軽動詞」の例であり,主語の意味役割のみ指定する不完全な項構造を持ち,常にVNを補語に取る.VN項は名詞句の外にあってもよい.松本(1996)の言う付加語の転移はない.ハは「重動詞」の例であり,完全な項構造を持ち,常にVN以外の名詞を補語に取る.(1)では項は統語論で実現される.(矢田部1990)
また,非対格VNは対格を許さない.((例)*誕生をした)(宮川1989ほか)そこで,軽動詞「する」は,補語であるVNの主語が持つ意味役割が動作主である場合にのみその構造は満たされる(単一化する)(ポラ ド&サグ1994)と考える.一方,VNが主語に動作主以外の意味役割を取る場合は,単一化に失敗し非文となる.(非対格VNは主語に対象を取る.)
しかし,VNが動作主を取る場合でも非文となる場合がある.((例)*犯人の逮捕をする)これを説明するため,VNのアスペクト(内田&中山1993)を考慮に入れ,主語と補語の意味役割とアスペクトの情報が投射の経路に沿って伝わり,単一化するという考えに基づく分析を提示する.これにより,格標示の問題,「する」を純粋な制御動詞と考える松本の分析では説明できない上のような事実を正しく説明できる.