本発表は,ヨルバ語の顕著な統語特徴である動詞連続について,どのような動詞の連続が可能なのかということを,動詞の意味に基づいて考察するものである.
ここでは,ヨルバ語の動詞を意味の面から,動作・過程・状態に大別し,
i) 動作動詞の連続には意味的な緊密性が必要である.
ii) 動作と過程の連続には,解釈が二義的になるものがある.
の2点について指摘した.
i) の意味的な緊密性は,(1) 目的語を共有する他動詞,(2) 単独で述部をなさない動詞,(3) 自動詞化した身体動作を表す動詞,などの統語的な形と相関する.
(1) | Erin | tẹ | ọ̀t̀á | pa. | 象が敵を踏み殺した |
象 | 踏む | 敵 | 殺す |
(2) | Bàbá | ń | fi | ọkọ́ | ro | ilẹ̀. | お父さんはくわで畑を耕している. |
父 | (進行) | 使う | くわ | 耕す | 土地 | ||
*Bàbá | ń | fi | ọkọ́ | (お父さんはくわを使っている.) |
(3) | Mo | lajú | wò | ó. | 私は目を開けて彼を見た. |
私 | 目を開ける | 見る | 彼 |
ii) の二義的な解釈は,過程動詞がとる対象 (theme) の解釈の違いによる.
(4) | Táyé | gbé | epo | jáde. | { | タイエはヤシ油を取り出した. タイエはヤシ油を持って出た. |
タイエ | 持ち上げる | ヤシ油 | 出る |
(5) | ó | gbé | ìwé | náà | fò. | { | それがその紙を飛ばした. それがその紙をもって飛んだ |
それ | 持ち上げる | 紙 | その | 飛ぶ |
それぞれ上の解釈では,対象に影響を及ぼす典型的他動詞と同じ「動作+過程」という意味の結合が考えられる.多岐にわたるヨルバ語の動詞連続を分析するためには,統語構造や動詞の他動性についての考察も不可欠である.今回試みた動詞の意味的分類にくわえて今後の課題としたい.